働き方の実態2026-07-31監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

訪問介護の移動時間は給与に入るのか — 北海道の広域が生む負担と対策

この記事の要点

「一件終わってから次のお宅まで、車で40分かかることもあるんですよ」と、道東のある訪問介護事業所の管理者さんが、笑いながら僕に教えてくれたことがあります。

結論から言うと、訪問介護の「移動時間」は、本来は給与の対象になるべきものです。ただし現場での運用は事業所によってかなり差があり、特に北海道のように広域をカバーする地域では、この差が働きやすさそのものを左右します。求人票の時給や月給の数字だけを見て「稼げそうだ」と判断してしまうと、実際の拘束時間との釣り合いが取れていないことに、働き始めてから気づくケースが少なくありません。今日は、移動時間という一見地味なテーマを、制度面と北海道特有の距離問題、そして現場の工夫という3つの角度から整理していきます。

0. この記事の結論 — 移動時間は「見えない労働」ではなく制度上のテーマ

先に僕の考えをまとめておきます。移動時間は、厚生労働省の通知に照らせば原則として労働時間に含まれるべきものです。しかし「原則」と「現場の運用」の間には、事業所ごとに埋まっていないギャップがあります。北海道で訪問介護への転職を考えるなら、この移動時間の扱いを面接段階で確認しておくことが、入職後の「思っていたより稼げない」「思っていたよりきつい」という感覚のズレを防ぐ、実務上いちばん効くポイントだと僕は考えています。特に施設勤務から訪問介護への転職を考えている方にとっては、これまで意識してこなかった「移動」という要素が、働き方の実感を大きく変える点になります。

1. そもそも訪問介護の「移動時間」とは何を指すか

訪問介護の移動時間には、大きく分けて2種類あります。ひとつは事業所からその日最初の利用者宅までの移動、もうひとつは利用者宅から次の利用者宅への移動(いわゆる直行直帰の場合はこちらが中心になります)です。前者は通勤扱いになることが多い一方、後者は「業務の一部としての移動」として扱われるべきだというのが厚生労働省の考え方です。

移動時間とよく混同されるものに「待機時間」があります。これは訪問と訪問の間に発生する空き時間のことで、利用者都合でキャンセルが出た場合などに生じます。待機時間の扱いも事業所によって差がありますが、今回はまず「移動そのものにかかる時間」に絞って整理します。

この違いを意識せずに求人票を見ると、「時給1,400円」という数字だけが目に入り、実際には訪問と訪問の間の移動時間が無給扱いになっていた、というケースに気づきにくくなります。僕が過去に相談を受けた方の中にも、月の稼働時間を計算し直したら移動分がまるごと抜けていた、という例がありました。

2. 移動時間は給与に含まれるのか — 厚労省の通知と現場運用の実態

厚生労働省は平成16年8月27日付けの通知(基発第0827001号「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」)で、事業所の指示により利用者宅から利用者宅へ移動する時間は、原則として労働時間に該当するという考え方を示しています。つまり「移動時間は給与に含めなくてよい」というのは、本来は誤りに近い運用だということです。

試算してみるとどのくらい違うか

数字でイメージしてみます。時給1,300円で1日6件の訪問をこなし、訪問と訪問の間の移動時間が合計で90分あったとします。この90分が労働時間として支給される場合と、支給されない場合とでは、1日あたり1,950円、月20日勤務なら約39,000円の差が生まれる計算になります(あくまで説明のための仮の試算であり、実際の金額は事業所の給与体系によって変わります)。決して小さな金額ではないことが分かります。

仮に、この90分に対して1日あたり1,500円の固定移動手当が支給される事業体系だった場合、時給換算で見ると実質的にやや目減りする月もあれば、逆に得をする月も出てきます。手当が「時間に連動しない定額制」なのか、「実働時間に連動する時給制」なのかによって、忙しい時期と落ち着いている時期での有利不利が変わってくる点も、押さえておきたいポイントです。

ただし実際の現場では、この移動時間分を「移動手当」として定額で支給する事業所、時給の中に織り込んで一本化している事業所、そして残念ながら明確な取り決めがないまま曖昧に運用している事業所と、対応が分かれています。僕の体感値で言うと、北海道内でも都市部の大規模事業所ほど移動時間の扱いを就業規則に明記している比率が高く、小規模・個人経営に近い事業所ほど口頭説明にとどまっている印象があります。これは良し悪しというより、事業所の規模と制度整備の進み具合が比例している、という話だと理解しています。

3. 北海道の広さが生む固有の負担 — 道央・道北・道東・道南で何が違うか

訪問介護における移動時間の負担は、地域の人口密度と直結します。総務省統計局の国勢調査によれば、北海道の人口密度は1平方キロメートルあたり約64人で、全国平均の約338人と比べると5分の1程度にとどまります。加えて、北海道は高齢化率も全国平均より高い水準で推移しており、総務省統計局の人口推計では北海道の65歳以上人口の割合はおおむね全国平均を数ポイント上回るとされています。人口が少なく高齢者の割合が高いということは、利用者一人ひとりの住まいが点在しやすく、訪問件数のわりに移動距離が伸びやすい、という構造につながっています。

僕がこれまで現場の方から聞いてきた体感値を、地域別に整理すると次のようになります。あくまで僕のヒアリングに基づく体感値であり、公式な統計ではない点はご承知おきください。

エリア1日あたりの訪問件数の目安訪問間の移動時間の体感値
道央(札幌近郊など人口集中地域)6〜8件程度10〜15分程度
道南(函館近郊など)5〜7件程度15〜20分程度
道北(旭川以北の郊外部)4〜5件程度20〜30分程度
道東(十勝・釧路・網走の郊外部)3〜5件程度25〜40分程度

この表からも分かる通り、道東・道北の郊外部では訪問件数そのものが道央より少なくなりがちです。これは移動に時間を取られる分、1日にこなせる件数が物理的に減るためで、歩合的な給与体系の事業所だと、同じ「フルタイム勤務」でも収入に差が出やすい構造があります。

道北・道東ではさらに事情が違う

道北や道東の郊外部では、隣の集落まで車で20分以上かかることも珍しくありません。冬場は路面状況によってさらに時間が読みにくくなり、僕がヒアリングしたある道東の事業所では、積雪期には移動時間の見積もりを普段より1.5倍程度多めに取ってシフトを組んでいる、という話を聞いたことがあります。こうした季節変動も、北海道の訪問介護特有の負担だと感じています。

4. 現場が実際にやっている対策 — 直行直帰・エリア制・車両支給

この移動時間問題に対して、北海道内の訪問介護事業所は、いくつかの工夫をしています。ひとつは「直行直帰」の導入です。事業所に一度出勤してから回るのではなく、自宅から直接最初の利用者宅に向かい、最後の訪問先から直接帰宅する形にすることで、事業所までの往復という無駄な移動を削っています。

もうひとつは「担当エリア制」です。ヘルパー一人ひとりに担当地域を決め、その地域内の利用者だけを回ってもらうことで、移動距離そのものを圧縮する考え方です。道東のある事業所では、この担当エリア制を導入したことで、1日あたりの移動時間が体感で3割ほど減ったという話を聞いたことがあります。

そして車両面では、自家用車を使う場合のガソリン代補助や、社用車・社用軽自動車の貸与という形で、移動コストそのものを事業所が負担するケースも増えてきています。冬場の雪道運転を考えると、この車両支給の有無は安全面でも見過ごせないポイントです。

実際に、施設勤務から訪問介護に移ったある方は、最初の1か月は「体力的にはむしろ楽なのに、移動の分、気持ち的に忙しない」と感じていたそうです。慣れてくると、移動時間を利用者ごとの記録整理や次の訪問の準備時間として使えるようになり、負担感が和らいだという声も聞きます。

パターン特徴働く側から見た注意点
移動手当型移動時間とは別に、訪問1件ごとや1日ごとに定額の移動手当を支給手当額が実際の移動時間に見合っているか確認したい
時給一本型移動時間も含めて拘束時間全体を時給換算で支給訪問件数が少ない日は時給換算の実質額が下がりやすい
不明瞭型就業規則や求人票に移動時間の扱いが明記されていない面接で必ず確認しないと後から認識のズレが生じやすい

5. 転職前に確認すべきこと — 面接で聞くべき5つの質問

ここまでの内容を踏まえて、訪問介護への転職を検討する際に、面接で必ず確認しておきたい質問を5つにまとめます。

この5つを聞いておくだけで、求人票の時給や月給の数字が、実際の拘束時間に対してどの程度の水準なのかが見えてきます。僕の経験では、この質問をした時点での担当者の答え方の丁寧さ自体が、その事業所の労務管理の成熟度を測る一つの目安になると感じています。面接の場で数字を濁されるようであれば、入職後もその曖昧さが続く可能性が高い、というのが僕の体感値です。入職後も、初回の給与明細で移動時間分がどのように計上されているかを確認する習慣をつけておくと、認識のズレを早期に見つけられます。

(結論)

訪問介護の移動時間は、地味なようでいて、実は給与とワークライフバランスの両方に直結するテーマです。厚生労働省の通知に照らせば原則として労働時間に含まれるべきものですが、その運用は事業所ごとに差があり、特に北海道のように広域をカバーする地域では、この差が実際の負担感を大きく左右します。転職を考える際には、時給や月給の数字だけでなく、移動時間の扱いを具体的に確認しておくことをおすすめします。皆さんいかがでしたでしょうか。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 訪問介護の移動時間は給与に含まれますか?

厚生労働省の通知(平成16年8月27日付け基発第0827001号)では、利用者宅から利用者宅への移動時間は原則として労働時間に含まれるとされています。ただし実際の運用は事業所によって異なり、移動手当として別建てにしている場合や、時給に織り込んでいる場合、明確な取り決めがない場合まで様々です。求人票の数字だけで判断せず、面接時に給与計算上の扱いを具体的に確認することをおすすめします。

Q. 北海道の訪問介護は都市部より移動がきついですか?

総務省統計局の国勢調査によれば北海道の人口密度は全国平均の5分の1程度で、道北・道東の郊外部では訪問と訪問の間に車で20〜40分程度かかることも珍しくありません。この点では都市部より移動負担が大きくなりやすいというのが僕の体感値です。ただし担当エリア制や直行直帰を導入して負担を抑えている事業所もあるため、一律にきついとは言えず、事業所ごとの工夫の有無を確認することが大切です。

Q. 転職の面接では移動時間について何を確認すればいいですか?

移動時間が給与計算に含まれるか、直行直帰の可否、担当エリアの広さ、移動手段とガソリン代補助の有無、1日あたりの訪問件数と移動時間の目安、この5点を確認することをおすすめします。この5つへの答え方の丁寧さそのものが、その事業所の労務管理の成熟度を測る目安になると僕は考えています。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

この記事を、eBookで持ち帰る。 本記事をスライド形式のPDF(16:9・全13ページ)に再構成しました。お名前とメールのご登録だけで、その場でダウンロードできます。
無料でPDFを受け取る →

自分の現在地を、まず知る。

「介護クエスト北海道 適性診断」(無料)で、いま狙える職域タイプが分かります。個別に相談したい方はキャリア面談へ。

適性診断をやってみる → キャリア面談をする →

あわせて読む

仕事のモヤモヤ、AIに話してみませんか

人手も気持ちもすり減りやすい仕事です。まず引っかかりを整理しませんか。
「キャリアのたね」は、対話しながら引っかかりを整理して、あなたの強みを言葉にしていくサービスです。

話しはじめてみる(無料)

登録不要・無料。求人の紹介から始めることはしません。運営:ポテンシャライト